中国の残留農薬問題
3年前中国野菜の残留農薬が問題となりました。その頃私は商社に勤務していて、中国から輸入した冷凍野菜を商品として扱っており、まさに渦中の人間でありました。当時は会社としては、これまで問題とさえされていなかったことが急に問題視され、その対策の立てる時間的な余裕もなく、ただ右往左往している状況でした。毎朝新聞を見ると冷凍野菜の記事を見ない日がなくなり、テレビにも報道され、勤めていた会社の社名が実名で載ったこともあります。
そのような中で、中国の冷凍野菜の事情、国内の冷凍野菜の事情を知っているものとして、新聞記者はいろいろな情報を使ってかなりよく調べてはいるものの、細かい情報までは調べきれず、新聞記事の掲載内容が間違っていて指摘したくなることも多々ありました。
当時は普通の食堂で食事をしていても、隣で食事をしている人が
「中国のほうれん草は食ったら死ぬらしいな」
などという会話が横から聞かれるほどで、聞いてぞっとした覚えがあります。中国のほうれん草を食べて死んだ人はいないし、致死量の残留農薬が検出されたわけではないです。毎日の新聞、マスコミ情報により、それを飛躍して、しかもかなりまげて解釈したものでしたが、当時はそれだけ人々の関心を集めていました。
残留農薬問題の問題が起きるまでの背景として、冷凍野菜にはその商品の中に異物がかなり多く、その対策に苦慮していました。いくら除去させても、わらや草、髪の毛などが製品に混入していました。同時に虫の混入も多かったのです。商品に虫が入っていると、日本の消費者は当然クレームにするので、虫が入っていないような商品を作れと口をすっぱくして、毎年工場に指導してきました。こういうことを日本の商社は中国側に何年も言い続けてきたのです。その結果、かなり商品に虫の混入は少なくなってきたのですが、それは中国の農場で、それだけの量の農薬を撒いた結果かもしれません。そうであれば、日本側が農薬を撒けと直接言ったわけではないにしろ、間接的に農薬を撒くように指導してきたわけで、その結果残留農薬が検出されたということになれば、日本側にも責任の一端はあるのかもしれません。中国の野菜は農薬漬けと言って知らん顔をできないのです。
ところで、一番問題となったのは、冷凍ほうれん草のクロルピリフォスという農薬です。冷凍ほうれん草は、当時中国産冷凍野菜の中でサトイモに次ぐ量が生産され、ほぼ全量日本に輸出されて来ました。ほうれん草は、なぜか他の野菜より日本の残留農薬の基準値が低いので、検査をした際基準値オーバーの検体がたくさんでたのです。その結果ほうれん草だけが問題となりました。逆に問題がありそうな他の野菜が当時検査の網をすり抜け、どんどん輸入されていたのです。私はこの辺の方が問題であると考えます。
ちなみにこのクロルピリフォスという農薬は殺虫剤で、アメリカではかなり昔に製造・販売禁止となり、日本では使用自粛されていた農薬です。当時の一番の問題このクロルピリフォスという農薬が検出されたということなのです。この農薬が検出されたので、農薬漬けだとか死ぬとかにまげられて解釈されたのです。中国の農民がこのクロルピリフォスという農薬を使っていたのは、中国では禁止ではなかったということ、よく効き、農薬自体が安価であるということです。残留農薬問題は、このような背景でいろいろな側面、背景があります。中国のほうれん草が農薬漬けだ決め付けるだけで、簡単に語れない問題であります。
中国の農民にだまされているのじゃないかという質問もありました。中国人は商売をしていると、だますから信用ならないとかいう話もあります。中国人と付き合っていると確かにそういう面もあることは否めません。商売はいろいろ確認しながら慎重に行った方が無難です。しかし、農民は別です。私は仕事柄、中国の農民の住んでいる住居に訪問したことがありますが、彼らは今にも壊れそうなぼろのレンガ造りの建物に住み、テレビも電話も本もない貧しい生活をしています。情報が欠如している上に、おそらく教養としては、中学校くらいしか出ていないでしょう。彼らが、他人をだまそうなどとすることは考えられません。人をだますにはある程度の教養がいります。中国の農家の人には、それは無理だと思います。だますことがあるとすれば、それを流通させようとする商人です。この辺も状況も理解できていないと、中国の残留農薬問題は語れないと思います。
中国では残留農薬に対しては、その後すごく改善をしようと努力をしていました。その点は評価できるのですが、まだ問題が全て解決し終わったわけではないのです。本当の問題はどこにあるのか、どうしたら改善できるのか、まだまだ先は長く、試行錯誤は続くでしょう。新聞記事に載ることが少なくなった昨今ですが、よりよい対策を日中合同で考えていくべきです。
« 義烏(ぎう) | トップページ | ニューポートニューズ市青年親善訪問団 »
「中国/アジア情報」カテゴリの記事
- 2019年1月上海(2019.01.24)
- 2019年1月上海(2019.01.24)
- 2018年7月大連出張(2018.07.30)
- 2017年10月大連出張(2017.11.05)
- 中国在日本爆买(2017.01.02)
コメント
この記事へのコメントは終了しました。
トラックバック
この記事へのトラックバック一覧です: 中国の残留農薬問題:
» 毒菜の根拠は、・・・ [おもしろすぎるぜ 中国で農業]
中国野菜が「毒菜だ」と言って、大騒ぎになったのが、2002年・・・・・この中では、私は、日本の方が、はるかに沢山農薬を使用していることを書いた・・冷凍ホウレンソウにクロルピリホスが、基準値を超えていたと言うことだった。・・・・そのことが、あって中国は、...... [続きを読む]
虫が食っている野菜の方が
おいしいんですよね。
きれいな野菜は虫も食わない?
投稿: なかむら@社労士見習 | 2005年8月 3日 (水) 22時30分